花散らで、(流血表現注意)

赦しを請う、とぎれとぎれの声に交差する。笑う声。

くすくす、

くすくす、

闇に満ちた錆に似たにおい。

くすくす、

くすくす、

およそその場に似つかわしくない無邪気な笑い声。

‥‥‥狂ってる、

赦しをひたすらに請うていた男が、怯えたように呟いた。

雲が切れ、月が顔を出す。

そのあかりに浮かぶ、男を見下ろす白い顔。

ふんわりと。

唇が笑んでいる。

優しい笑顔。

その顔を見あげ、男は「狂ってる、」

再び呟く。

ふふ、

美麗な少年の柔らかな笑顔が、男の背筋を凍らせる。

男は周りを見回す。救いを求めるように。そして絶望する。

あれほど居た男の仲間は全て地に転がっていたただの物体として。

ぞくり、

改めて恐怖が。

男は吸い寄せられるように再び見あげた。この場でただ一人、立っている少年を。

彼は軽く首を傾げて不思議そうに男を見ていた。

漆黒の瞳。

笑んだままの口許。

夜風にさらりと黒髪が揺れる。

ウツクシイ、

そう、思ってしまった。

完璧な姿。美しい天使。

確かに油断もした。

まさかこんな華奢な少年がたったひとりで。

屈強で喧嘩慣れしている男達を相手に。

喧嘩。いや、殺し合い。違う、

殺戮だった、それは一方的な殺戮。

狂っている、

殺気などまるで持たず。

流麗な演舞でも舞っているかのように。

必要最小限の動きで。確実に急所だけを狙い。

‥‥‥笑ってやがる。

愉しんでいた。この少年は。殺戮を。血を。

なんだ、

なんだこいつは、

なんなんだ、

組織の幹部である男は、血を見る場面など見慣れたはずなのに。

なんだ、

なんなんだ、

こんな、

こんな表情は、

知らない。

なんだこいつは、

なんなんだ、

殺気すらもたない相手なのに。

怖い。

そう思った。戦意が消えた。こわいこわいこわい。

得体の知れない恐怖だけが男を占める。

躊躇いもなく切り裂かれる仲間の喉元。

飛び散る赤。

赤、

赤、

そうして、気がつくと。

辺り一面血の海で。

男は倒れていた。激痛が躰に走った。

顔をあげると。

とても綺麗な。

美しい天使が。

笑っていた。

「‥‥‥んで、」

男は問う。失血で意識が遠のいていくのを感じる。

「なんで、」

少年は首を傾げて。男を見ている。

無邪気な瞳。ああ、綺麗だな。

なんで、俺たちなのか。

なんで、ひとりで。

なんで、

なんで、

なんで、

少年はしゃがみ込む。男に目線を合わせて。

にこにこと。

「ごめんなぁ、‥‥‥でも、愉しかったで?」

くすくす、

男はもう動かない。少年の声を聴くこともない。

 

***

 

静まりかえった屋敷の庭。

耳を澄ませてももうほかに人の気配はない。

少年は立ち上がり、んー、と伸びをして。

息をひとつ吐くとその表情を一変させた。

人形のような。ただ、美しいだけの無表情に。

退屈そうな。気怠い表情。

少年は転がる男達と血に濡れた地面を気にすることもなく歩き出した。

庭を出て、門を開け外に出ると。

入れ替わりに数人の男達が屋敷の中へと駆け込んでいく。

暗がりに駐まっていた黒いくるまの窓が開く。

「派手にやったようだね、」

その言葉に、少年は軽く首を傾げ、

「愉しかったよ?」

にっこり笑った。

「顔、わかんなかったから。片っ端から殺っちゃったぁ」

くすくす、無邪気に笑って。

月のあかりが彼を照らす。